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全てのアラームが鳴っていた。モニタは殆ど真っ赤に染まり、送風口から煙が吹き込んでくる。
「っ、なんでこんな所に空いてるんだよ!」
突如襲ってきた衝撃に、カナンは操縦席から投げ出されたが、そんな事よりも第一モニタに表示される危険信号の方が、問題だった。
格子状のデッキから即座に立ちあがり、もう一度画面を確認する。
先程見た映像が嘘であってくれと願っていたが、モニタにはくっきりと進行方向にあるワームホールが映し出されていた。
どうにか進行方向を変えようと、操縦桿に手を伸ばす。
しかし握った瞬間、再びガツンと船体後方に衝撃を感じた。
短く悪態を吐いてから、体勢を立て直して操縦桿を右上に向ける。
左下方のワームホールを回避しようとしたものの、元々故障していた船体は後方からの攻撃に寄って、よりひどい状態になっていた。
ワームホールの吸引力に逆らえず、どんどん落下していく船体を止める事が不可能だと分かり、すぐに安全プログラムに切り替えた。
けれども画面にはエラー番号が表示されるだけで、実際にプログラムが実行される気配はない。
もう一度、先程とは違う悪態を付いて、カナンは今更ながらに母星に救難信号を送った。
後はもう覚悟を決めるだけだ。
操縦席に座り、固定用のベルトを着ける。
「できればPAL系列、いや、文明が発達している星の近くならどこでもいい」
短く息を吐いて、心を落ち着ける。
突如現れ、突如消えるワームホールはそれ自体がどこに繋がっているか分からない。
飲み込まれた全ての船が、必ず出口に辿り着けるかどうかも、解明されていない。
カナンはじわりと汗ばんできた掌を、薄水色の制服で拭う。
警備兵の中でも、最下層である植民星警備の担当者に賞与される制服は、薄い生地で出来た簡素なものだ。
つい数ヶ月前まではナショナルカラーの紺色の軍服に身を包んで、要人警護にあたっていた。
「国家憲兵隊にいた頃ならまだしも、今は死ねないよな。警備兵じゃ大した見舞金付かないしな」
だから頼むぞ、と操縦桿を両手で握りしめながら願う。
安定を失いガタガタと揺れていた船体はワームホールの引力が強くなるにつれ、滑るように滑らかに動いた。
磁気干渉を受けて、モニタが端々から消えていく。
けれどカナンが祈るように目を閉じた後で、最後に残ったモニタはもう一の船がワームホールに飲み込まれていく様を捉えていた。